Primary Medicine

本道内科学

抜苦與楽

渡辺元雄 著

1975年に内科の医院を開業し、半世紀近く“かかりつけ医”として診療してきた著者が、すべての医師が専門医になった現代の医学で見失われた「一般内科医」とはどのような医師かを問い、その復権を訴える一冊です。

『本道内科学』の表紙

本書のテーマ

一般内科医の復権

本書の後半「Ⅱ 見逃されてきた医学 ―“一般内科医”の復権―」より(本書127ページ)

著者のいう「一般内科医」とは、専門医ではない内科医、一般医としての内科医のことです。半世紀前までは身近にいたこの医師が、なぜ見失われたのか。どのような専門性をもつ医師なのか。本書は、著者自身の経験と、英国の一般医ジョン・フライやルイス・トマス、オスラーらの言葉から考えていきます。

21世紀の医療制度には、一般医が不可欠であるということは明らかだと思う。“一期の月影傾きて余算の山の端に近し”という私であっては、一般医の復権をこの眼でみることはできないかもしれない。21世紀が終わるまでに、その日が来ることを願っている。

Ⅱ 第4部「一般内科医の復権を目指して」結語(本書285ページ)より

1半世紀前まで、一般内科医がいた

私は1964年(昭和39年)に医学部を卒業したが、その頃内科学で大きな変化が起こった。内科医がすべて専門医に分化した。それまでは、専門医ではない内科医がいた。一般医としての内科医である。これを一般内科医と名付けよう。この一般内科医がいなくなった。

「半世紀前まで存在した一般内科医」(本書264ページ)より

著者がインターンとして研修した病院では、内科はひとつの診療科で、医師はそれぞれ得意分野をもちながらも臓器別の専門医ではありませんでした。ところが4年後に勤めた病院では、内科は臓器別の専門科に分かれていた——。著者は、それが日本全国の病院で一斉に起こったことだといい、自分たちを「一般医の実物を見た最後の世代」と呼んでいます。

2一般医もまた、ひとつの専門医

この私の論文の主張は、一言でいえば「一般医、すなわち非専門医もまたひとつの専門医である」というものである。

「半世紀前まで存在した一般内科医」(本書263ページ)より

2001年、日本医師会の懸賞論文に投稿し、優秀賞に選ばれた論文「21世紀の一般医」の主張です。著者はこの一般医の専門性を、オーケストラの指揮者にたとえます。

専門医
楽器の演奏者専門医の責任は部分的
一般医
オーケストラの指揮者一般医は全体に責任を負っている

一般医の専門性は、医師の責任という基準から見なければならない。専門医の責任は部分的だが、一般医は全体に責任を負っている。

「ジョン・フライの定義における一般医の専門性」(本書268ページ)より

指揮者は演奏しない、音は出さない、しかし指揮者の専門性は明らかである、と著者は述べます(本書283ページ)。

3書名の「本道内科」とは

室町時代に「外科」という言葉が創られたとき、その対になる言葉は「内科」ではなく「本道」でした。著者によれば、当時の医学は「本道対外科」で、西洋医学の「医学(medicine)対外科(surgery)」に当たり、医学全体について正しい認識があった。ところが杉田玄白たちは本道を捨てて「内科」という言葉を創り、のちに西洋で生まれた internal medicine も「内科」と訳されて、medicine と internal medicine は同じものと解釈されるようになった——。そこで著者が提案するのが「本道内科(primary medicine)」という言葉です。

現在の日本の医学には、旧い医学を示すための新しい用語が必要であり、日本の医学の歴史を踏まえて、‘本道内科(primary medicine)’という言葉を創ることを提案したい。

「内科の用語について」(本書111ページ)より

本書が示す primary medicine の定義(本書111ページ)Medicine = Primary Medicine + Internal Medicine

Primary medicineの日本語訳は、その概念から言えば、本道の一語で十分であるが、本道は医学用語としては馴染みのない言葉なので、意味は重複するが内科を追加するのがよいと思う。

「かかりつけ医とプライマリ・ケアの用語について」(本書116ページ)より

医学の概念の変遷

本書の付録では、医学の全体を三角形で表し、新しい医学用語が生まれるたびに医学の概念が変わってきたことを、①②③の組み合わせで示しています。そのうち3つを図にしました。後半のⅡでは、①の医学を「医療指揮科(primary medicine)」とも呼んでいます。

医学の概念 3室町時代
①②③
  • ①+②室町時代の本道 当時の西洋のmedicine
  • ③室町時代の外科 当時の西洋のsurgery
医学の概念 620世紀
①②③
  • ①内科(medicine)米国“見失われた医学” 日本“見逃された医学”
  • ②内科(internal medicine)
  • ③外科(surgery)
医学の概念 821世紀(試案)
①②③
  • ①医療指揮科(primary care、かかりつけ医、一般医、内科標榜医、primary medicine)
  • ②内科(internal medicine)
  • ③外科(surgery)

注:医療指揮科(primary medicine)は著者による造語

Ⅱ 第2部の「付1 医学の概念の変遷」(本書190〜192ページ)より。色分けはこのサイトで付けたものです。

現代医学は、指揮者のいないオーケストラである。現在見失われているこの指揮者をとり戻さなければならない。

Ⅱ 第2部「見逃されてきた医学」結び(本書188ページ)より

本書の構成

本書は「Ⅰ 見失われた医師」と「Ⅱ 見逃されてきた医学」の二つからなります。

各部の内容と目次を見る

書誌情報

書名
本道内科学 『抜苦與楽』
英文の書名
Primary Medicine
著者
渡辺元雄
判型・ページ数
A5判・288ページ
ISBN
978-4-86741-443-9
発売日
2026年3月20日
定価
2,750円(本体2,500円+税)・電子書籍も同じ
発行
ブイツーソリューション