本の紹介
あらすじ
町はずれの丘の上に、開いているのか閉まっているのか分からない小さな図書室があります。管理人は、口数の少ない元教師・槙尾さん。ここには、本を「借りに」来る人よりも、「返せなかった本」を抱えてやって来る人のほうが多いのです。
過去にうまく言えなかった言葉、渡せなかった気持ち、選び直したかった日々。五人の訪問者はそれぞれの一冊を返しながら、少しずつ自分の物語を取り戻していきます。
目次
- 一冊目の栞二十年ぶりに図書室を訪れた男が見つけた、自分の字の貸出カード。
- 雨の日の貸出カード傘を忘れた高校生と、閉室を延ばした司書の、雨上がりまでの話。
- 長い休みの本棚学校に行けない夏、少女は「今日の一冊」を選ぶ係になる。
- 返却期限のない手紙亡き母の借りていた本に挟まっていた、宛名のない便箋。
- 木漏れ日の図書室取り壊しの決まった図書室で開かれる、最後の朗読会。
試し読み
図書室のいちばん奥の席には、午後三時をすぎると細長い光が差す。棚と棚のあいだを抜けてくるその光を、槙尾さんは「今日の栞」と呼んでいた。
「本はね、返しに来るときのほうが、いい顔をしているんですよ」
貸出カードを差し出した私に、槙尾さんはそう言って、二十年前の日付の上にそっと判を押した。
(本文より・見本のための架空の文章です)